ガラパゴスソフトウェア

最近「ガラケー」という言葉をよく耳にする。日本の携帯電話はガラパゴス化しているということである。日本の携帯電話は非常に優れているのだが、世界の標準とは違う特殊な進化を遂げているということで、ガラパゴス諸島の特殊な生物進化になぞらえてそう呼んでいる。
しかし、ガラパゴス化しているのは、携帯電話だけでは無い。ソフトウェアも同様である。この業界で20年以上飯を食って来た人間として、この状況を憂いている。infoScoopをオープンソースhttp://www.infoscoop.orgし、最初から日本語と英語でメンテナンスしている理由の一つはそこにある。
90年代半ばまで、日本のソフトウェアは日本語化という特殊な事情で守られて来た。海外では、Double-Byte Character Set(DBCS)とか、Multi-Byte Character Setとか言われていた。この頃私は、海外のあるベンダーにDBCSの対応の仕方について、リポートを書いたことがある。それは、毎回新しいバージョンをリリースする度に、DBCS化をするのは、大変非効率であると思ったからである。同時にUnicodeのカンファレンスにも出た。まだJavaUnicodeに対応する前のことである。
面白かったのは、東京で行われたUnicodeカンファレンスである。海外の技術者の発表に対して大反対をする日本の技術者が多かった。私は、当時、DBCS対応をしていたので、日本の技術者が主張していることは、よく理解できた。しかし、同時に、そんなことを主張していても意味が無いし、いつかはクリア出来る問題でもあると思っていた。案の定、その後JavaWindowsが全面的にUnicodeをサポートした為に、DBCS問題の解決は大きく前進した。
日本語化という特殊な環境により、日本のソフトウェアは日本固有の進化をし、ガラパゴス化していってしまった。
もう一つの例は帳票である。欧米の帳票ソフトは日本ではあまり受け入れられなかった。帳票の考え方が違うからだ。もともと、欧米ではタイプライターの文化がある。タイプライターで文書を作成するという文化である。高等教育を受けた人であれば、学校の宿題をタイプライターで作成した経験のある人は、高齢者の中でも数少なく無い。そういうひとたちは、パーソナルコンピュータがでて来たことで、ドキュメントを保存して、電子化出来るという、大きなメリットを感じた。
一方日本はどうだろうか?ワープロというハードウェアがでて来た時初めてキーボードを触ったという人が多い。この時、まだ高価でもあったために、一部の人にしか行き渡らなかった。そして、そういうひとたちは、電子化をするのでは無く、フォーマットを作成した。そして、それを印刷して、その紙に手書きで文字を書き込み、会社などに提出した。パーソナルコンピュータがでて来た時もしばらくは、フォーマットの作成に使っていたんだと思う。少なくとも自分の周りではそうしていた。
つまり、欧米は一直線に電子化に進んだのに対して、日本は電子化のまえに、見やすさを追及したのである。それ故、今の日米の帳票ソフトは見やすさの面で大きな違いがある。見やすいのはいいことでは無いか?その通りである。しかし、一方で紙に出して見るという文化が、電子化を妨げた部分も皆無では無いと思う。いまだに、「いゃー、うちの部長は紙に出さないと見ないんですよね。」なんて、大企業はいっぱいある。
もう一つの例はワークフローである。これが今私の悩みの種である。いや、ワークフローの問題だけでは無い。組織という概念を持ったソフトウェア全般のことである。例えば、スケジュール管理ソフトなども同じである。
日本の場合、組織に紐付けられた業務が多すぎる。ある情報は、他組織は見れなくするといった処理が多い。しかし、21世紀の組織はプロジェクト型であり、またそのプロジェクトは企業をまたがる。今多くの企業では社内でグループウェアを使っていると思う。日系のグループウェアベンダーも頑張って欧米のグループウェアに対向している。しかし、それが大きな問題だ。特に、日本型の業務プロセスに合わせる為に、組織の概念を作り込んでしまっている。欧米では既に、組織を超えたコラボレーションを行えるソフトが中心になっているにもかかわらず、日本ではいまだに、「組織」である。これらのソフトウェアを導入した企業は、組織を超えたコラボレーションをしたいと思っても、ソフトウェアがそれを邪魔して出来なくなる可能性もある。ソフトウェアのガラパゴス化が、企業のガラパゴス化を促進してしまうのだ。
私は今、infoScoopのアドバンテージとしてOpenSocialを詠っている。OpenSocialというのは、SNSなどのソフトウェアの標準である。前述した、組織(企業)を超えたコラボレーションのソフトウェアの標準といってもいい。組織を超えたコラボレーションというと、多くの日本企業のIT部門の方は、「セキュリティが...」というであろう。しかし、そのセキュリティを確保しながら、企業を超えたコラボレーションを出来る様にするのが、OpenSocialの目的の一つでもある。
私は、日本のソフトウェアがもっと海外で活躍して欲しいと思う。その為には、ベンダーはもっと標準仕様に対応していく。そして、企業も標準仕様に対応できないガラパゴスソフトウェアを使わないということが必要だと思う。